タイやベトナムで現地採用として職探しをしているときに一番問題だなあと思うのが、人材エージェントから、自分の興味の無い仕事ばかり紹介されるということだ。
これは自慢にもならないことは承知で申し上げるが、私はメーカーも商社も、物流もITも何もかも興味が無い。産業に関係すること、そして、人々の生活に直接的に役に立つことは興味が無かった。
ところがどういうわけか、人々の生活に役に立つ商品や産業、業界の仕事の方がサラリーは良いし、アセアンにある現地採用の求人は多いのである。
どこかの原料商社に受かったとしよう。さして興味も無いのに頭にねじり鉢巻きをしてその仕事に取り組むために勉強を開始できるだろうか。
私は元来、根が真面目な所為か、そうした場合にどうしても仕事に関する勉強をしてしまうわけである。タイにいるときはよくプロンポンにあるキーブックスで業界に関する古本を買ったり、あるいは紀伊國屋書店で新品の専門書を買ったりした。「よくわかる〇〇」であるとか、専門書であるが、初学者向けに書かれた本を真面目に購入して勉強したものである。
しかしながら、これがさっぱりつまらないという問題が生じた。眠くなる目をこすり、こすりしながら勉強したものだ。それでもやはりつまらない。
そうやって、「どうあがいても、産業に関する事柄は面白く無い」という結論を胸に抱きつつ、どこぞの会社に入社するわけであるが、そこには訳知り顔をした先輩連がワンサカいて、彼らは専門用語を駆使しながら、「新入りのお前さんにはどうせわかるまい」という風に、わざとこちらが分からないように、話をしてくることもあった。お客さんにしてからがそうである。
とは言っても、その業界に入ってしまったが以上、その業界や商材に関する勉強というのは避けて通れない。興味がないという言い訳は通用しないのである。だが、どんなに努力してみたところで、興味というものは人間の内奥から湧き出てくるような性質のものであるから、外的な努力を加えてみたところで、なかなかうまくいかないものなのである。
このあたりの職業人のジレンマというのは、別段、タイに限ったことではなく、日本でも、あるいは世界中、どこでもありうる普遍的なことであろう。
私は自らの運営するメディアにおいて、自身のスタンスとして、こうした事柄について、正直に、誠実に心情を吐露したいと考えた。ここを偽っては発信がブレてしまうと思った。もう今更、SUS 304がうんたらかんたらとか、錆びるステンレス、錆びないステンレスの違いとか、機械的性質とか、もうウンザリであり、お腹いっぱいなのである。
もちろん、そういう類の話というのは、社会や人類の発展にとって必要不可欠であるが、別に私がそれに従事しなくてもよかろう。もっと別にやることはあるはずであった。