夜にレタントンのファミリーマートの付近の路上であったが、突然、後方から、
「オニイサン、カバン、キヲツケテ!」
と言う声が聞こえた。
私はリュックサックを背負っていた。物盗りにカバンの中身を刷られる事を心配して、見知らぬベトナム人が声をかけてきたのかわからない。
余計なお世話である。気安く声をかけてくるなと言いたい。ホーチミンの路上で怪しげな日本語を使って話しかけてくるベトナム人は、すべて無視するようにしている。靴磨きがしたいと言って、かなりしつこく付きまとってくる奴もいるが、とにかく無視を決め込む。連中も日々の糊口をしのいで行かねばいかんと言う事だろうが、ああ言う連中に憐憫の情など一切湧かない。
また、一度など、やはりレタントンのすき家で飯を食っていたら、隣の長テーブル席に座った若い兄ちゃんがいて、最初その兄ちゃんを見た瞬間に、どこかだらしない、服装もヨレヨレで小汚い格好をしていた輩だとは思った。それとなく観察していたら、案の定、店の客では無いようであった。あぐらをかきながら、ゲームか何かをやっていた。
二人の親子連れの客が来た時、店員がその兄ちゃんに向かって何事か言うと、兄ちゃんは立ち上がって、その親子連れ客に向かって、「Follow me!」と言って、二階席に案内しにいった。
その兄ちゃんは店の関係者には違いないが、よしんば兄ちゃんが店員だったとしても私服で客席で遊んでいると言うのは日本では考えられない事だ。東南アジアはとてもゆるいと言う事だろう。こうした光景に出くわして不快さの方が先に立ってしまうので、私もまだまだ自分の感性が東南アジア化していないのだなと思う。
タイについては、冒頭でお話しした、路上で声をかけてくるタイプの物売りに遭遇することがほとんどなくなった。私がタイに最初に来た2008年であったか、空港で外に出たタイミングで、タクシーの呼び込みがしつこく声をかけてきたのを覚えている。
あの頃のタイはまだそんな胡散臭い輩が大手を振って歩けるだけのゆるさがあったのだろう。今はもうかなりタイも近代化されて、悪い言い方をすれば乙にツンとすましていると言うか、下品さがなくなりつつある。どんどん便利で快適になるタイだけれども、エキサイティングさは減っていく。
単に生活するだけならタイが一番良いかとは思う。