ホーチミンのとあるショッピングモールにあった喫茶店で、ベトナムコーヒーを初めて飲んだ。うまかった。苦味が全面に押し出された味だと思う。飲んだ瞬間にガツン!来る味だ。
それから、そのモールを出て、付近の住宅街をあてもなく彷徨ったのだが、住宅街に何軒か喫茶店があった。
土曜日のお昼前という時間もあったのかもしれない。客はどこもまばらであった。
その中の一軒の喫茶店のオープンテラスで再びベトナムコーヒーを飲むことにした。
その店はどういうわけかウェイトレスが無言で、私の隣に座ったのだった。ボディコンみたいな服を着た女性で、ぽっちゃりとしていて、あまり美人ではなかった。そして、腋臭のような臭いがプンと鼻につくのも気にかかった。
いや、そんなことよりも、なぜ、私の隣に座ったのか意味が分からない。新手の水商売の店なんだろうか。後で法外なチップを要求されないだろうか。私の不安は高まるばかりであった。
私からもとくに話かけなかった。彼女の方も無言であった。だがしばらくして、そのベトナム人女性の方から私に話かけてきた。
私がベトナム語が分からないジェスチャーをすると、今度はスマホのグーグル翻訳で、どこから来たのか?とか、何をしているのか?などなど、質問をしてきた。
それに私もグーグル翻訳を使って答えながら、しばらくベトナム女性との会話を楽しんだ。
その後、女性との会話を切り上げてお勘定をお願いしたら、コーヒー一杯の値段は25000ドンであった。まあ、ローカル価格としてはこれくらいだろう。
あのウェイトレスは一体何の意図があって、私の隣に座ったのだろうか。私が放つ男性的魅力に抗い難いものがあって、やむにやまれぬ思いでもって、近づいてきたのだとしたら男冥利に尽きるというものだが、そうではあるまい。単に、外国人が、それも日本人がホーチミンのあんなローカルエリアに現れたということが珍しかっただけだろう。